6月。私は忙しかった。
正確にいえばいつも忙しい。だが、それにも増して、「貧乏暇なし」 の度合いはさらに高まっていた。まるで私に 「こいつに死ぬまで仕事をやらせたらどれだけ仕事が捌けるか?」 とばかりに試されているかのようだった。
なにしろ、レガシィB4 2.0GT DIT を購入してから 1年半、まともに走った距離は 1,000km に満たない。
BC5 など、あまり乗れないので半年以上ボディカバーをかけてガレージに放置したままだ。私は走る人間だ。そんなのは絶対に我慢がならない。半年掛かりで仕事をサボる口述を周到に準備した上で、先日、ようやくレガシィB4 2.0GT DIT を オートポリスの走行会に連れ出すことができた。
取って付けた 「お悧巧な理屈」 で、BMG / BRG をコケにした メディア や 評論家 は 阿呆 であるばかりでなく、ドライビングスキル も 自動車に対する見識 も持ち合わせていない。特に 「スバリストの苦悩はいつまで続くのか」 と、BMG / BRG ばかりか、我々 スバリスト までコケにした 馬鹿野郎 を私は絶対に許さない。
もうあんた、スバル に乗る必要ないよ。一生 BMW4シリーズ に乗ったまま、降りてくるな。喜んで ドア の ロウ着け にはお伺いするよ(怒)。
GDB型 インプレッサWRX STI タイプRA スペックC で、かつて私が出したベストラップから、わずか 3秒落ち のタイムを記録した。BC5 レガシィRS より 1.5秒 速い。タイヤは ポテンザ RE050 のままだ。オートポリスはテクニカルなコースだ。パワーがあればタイムが出る、というサーキットではない。
ちなみに、この 1.5秒落ち の BC5 は、GC8型 インプレッサWRXタイプRA STIバージョンIII のエンジンとドライブトレインをスワップした車両だから、厳密にいえば、「本物の」 BC5 レガシィRS より 4 〜 5秒見当 で速い、ということになるはずだ。
Dセグメントの 4ドアセダン で、ここまで早いタイムで走れるクルマは、グローバルでもちょっと思いつかない。ブレーキングでアンダーステアを殺すこともできる。コーナーの入り口で少し頭をインに向けることもできる。それは、スバル の誇る究極のAWDシステム 「VTD-AWD」 の恩恵だ。レヴォーグ では、ここに アクティブ トルク ベクタリング という新たな制御が加わる。
FA20型直噴ターボエンジン を搭載した BMG / BRGレガシィ 2.0GT DIT が、BL / BP型 から 「失ったもの」 など何もない。そこにあるのは、富士重工業 技術陣の地道な研究開発の成果が実った「顕著な正常進化」 のみだ。8速マニュアルモードをパドルシフトで回転を切り刻みながら駆け抜ける喜びは、歴代の レガシィ を知る者にとって筆舌に尽くし難い。
スバル ほど長い時間、AWD に血道を上げてきたメーカーは、世界のどこにもない。シンメトリカルAWD 以外のメカニズムはマネをすることはできる。だが、駆動力制御型AWD でモノを言うのは、ハードではない。それを 「どのように制御するか」 という ソフトウェア だ。
そこには、表に出るもの出ないものを含めて、長い年月をかけて 富士重工業 が AWD について繰り返してきた膨大な試行錯誤の 「技術的蓄積」 がある。「いつ、どのように、どれくらい、どのメカニズムをどういう風に動かすのか」という パラメータ の設定と 制御ロジックの構築 は、どれほど電子制御化が進んでも、人間がやらなければならない仕事なのである。
EyeSight についても同じことがいえる。
最近のネタを拝読させて頂く限り、そろそろ広島の某メーカーへの就職も近いと思われ、そのことを私は心よりお祝い申し上げたい 某親方評論家 は、「こんな技術どこでもすぐに追いつく」 といったようなコメントを繰り返しているが、果たしてそうだろうか? パーツサプライヤー任せでどうにかなるような技術ではないと思うのだが。富士重工業 は このステレオカメラ を利用した プリクラッシュ セイフティ システム の開発に 1989年以来、実に 25年 もの歳月が掛かっているのだ。
プリクラッシュ セイフティ システム で難しいのは、まず対象物をどのように捕捉するのかという 「認識技術」 、そして、その 「認識」 に対して、どのように車両制御をするのかという一連の動作を連携させる部分だ。一般の路上で、こういったシステムを適確に動作させるために必要な パラメータ は、ほとんど無限といえるほどの組み合わせが考えられる。
当然ながら、その 「無限」 のパラメータ をシステム全体の動作に反映させるための 「技術的蓄積」 は、一朝一夕でできるものではない。そして、おそらく、EyeSight という画期的なシステムの開発の途上で、システムの構築に必要なパテントの出願も膨大な数に上ることだろう。
EyeSight が登場してから、世界中のメーカーが慌てて似たようなシステムを搭載して発売した。しかし案の定、システム自体の信頼性については語るに及ばず、パラメータ をどのように車両制御に反映させるかという 「技術的蓄積」 の不足が露呈している 「お粗末」 なものばかりだ。到底 EyeSight と並んで評価できるものは存在しない。
EyeSight 登場以降、自分たちの送り出した クルマ の ユーザー の 「命」 が 掛かっている安全技術で、こうした 「お粗末」 なものを送り出すことができたメーカーについては、既存のクルマも含めて、その 「モノ造り」 に対する 「根本的な考え方」 を疑われても仕方がないだろう。
その 富士重工業 が 「やる」 と言っているのだ。レヴォーグ が素晴らしいクルマであることは間違いない。だが、どう考えたって レヴォーグ の誕生に合わせてディーラーに足を運ぶことはできそうもなかった。
レヴォーグ の発売が迫るにしたがい、私の苛立ちは頂点を迎えつつあった。仕事をサボるには、周到に準備した 「口述」 が必要だ。
そこに幸運にも救いの神が現れた。私は一も二もなく、レヴォーグ の誕生に合わせて、全国各地で開催されるという 「LEVORG DRIVING EXPERIENCE」 に応募した。すでに 東京・大阪 で行われた開催では、かなりの倍率になったと聞いていた。
俺が当たらない訳がないだろう!私は当選の連絡が届く前から、 開催までの1か月間を、仕事を 「すっぽかす」 ありとあらゆる手段を講じることに精魂を傾け始めた。 |